今帰仁(なきじん)中央公民館を見る

今帰仁中央公民館 設計:象 設計集団+アトリエ・モビル 1975年
今帰仁中央公民館 設計:象 設計集団+アトリエ・モビル 1975年

入口を入ると、広い芝生の広場の先に赤い列柱が目に飛び込んでくる。

平面図を見ると異常に柱の多い建築だ。林立する柱の間に分散していろんな室が配置されている。左から事務室、図書館、講習室、料理教室、和室、トイレ、ホール、である。これらの室は一枚の大きな屋根に覆われている。そして室と室の間は吹きさらしになっており、喫茶コーナー、や段のあるレクレーションコーナーになっている。柱の数は276本。

柱はコンクリートプロックを積み上げたもの。この中に鉄筋コンクリートの柱があるに違いない。

外周の柱の列の内側に廊下状の空間が通っている。

竣工して45年の歳月がたっている。すでにいろいろと風化が進んでいるのかもしれない。

すべての室は柱の列で囲まれ、深い庇の奥に引っ込んでいる。

取り囲む列柱がつくる空間は、外でもあり、内でもある。

風を通すが、強い日差しは遮る。ガジュマルの木陰のように。

柱の足元を飾る貝殻の装飾。

この貝殻の埋め込み装飾、貝殻モザイクと名付けられたものだが、婦人会、子供会、老人クラブ、などむらびとが1週間、みんなで力を合わせて作ったものだ。

この貝殻モザイクこそが、この公民館がむらびとの総意で出来たことを分かりやすく示している。この公民館は「むらづくり委員会」の時間をかけた議論のすえに、出来たものだ。

設計した「象 設計集団」は通常の設計事務所とはかなり異質の建築家だ。

早稲田大学の建築学科は一時、戦後の近代建築をリードする力強い存在だったが、その中心にいたのが吉阪隆正である。吉阪隆正はル・コルビュジエの弟子としても有名だが、破天荒な生き方がずば抜けていた。世界中を駆け巡り、山に登り、秘境を探検した。建築の設計でも「大学セミナーハウス」「アテネフランセ」など世間の常識を突き破り、人々を驚かせた。

その吉阪隆正に心酔した弟子たちが作った設計チームが「像 設計集団」だ。

彼らも常識にとらわれない極めてユニークな建築家グループだ。

「象 設計集団」の特徴はなによりも徹底した集団主義。しかも地域密着活動が徹底している。沖縄との長い付き合いの中から数々の作品を生み出しているが、その中でもこの「今帰仁中央公民館」と「名護市庁舎」は代表的な作品である。

この作品により、1977年文化庁芸術選奨新人賞を受賞している。

トイレ。

何しろ、ホール、事務室、図書室、トイレなど全ての室が大きな一つの屋根の下に分散して配置されている。屋根の下、は外のような内のような。

大きな一つの屋根を沢山の柱が支え、芝生の広場を囲んでいる。

自然と建築が溶け込んで、一体化しているようだ。

緑の芝生と赤い柱の対比。自然な色ではない。そこには設計者からの強いメッセージが込められているに違いない。

象設計集団の活動は、まず、地域の気候、風土、文化、生活など、徹底的に調べる、人々の中に入って、語り合い、体験する。その中から、あるべき建築のイメージを引きだす。その結果、近代建築の常識を覆す破天荒な造型が浮かび上がる。

テーブルの配置が当初の図面とは異なっているが、当初、喫茶コーナーとされていた場所である。

ここはガジュマルの大木の下の木陰のような場所かもしれない。ここでは何をやってもいいのかもしれない。

大きな屋根の下で柱に囲われて、外のような内のような、風のよく通る場所、いろんな集会に使われたのではないだろうか。

内部の柱はよく当初の色を留めている。

自然との同化。

色の抜けた柱と貝殻モザイク。

ブーゲンビリアの赤い色が柱の赤と見事に調和している。

この花の赤い色がヒントになったのかもしれない。

ここから見ると緑と赤の対比は実に自然に見える。

建物を突き抜ける廊下。

事務室の前を通る廊下。

貝殻モザイク。

完成した1975年はたしかに昭和50年。こんな年にできたんですね。

裏に通り抜ける。

こちらはちょっとおもむきが異なる。

裏の新しい公民館の階段を登ってみると、中央公民館の屋根が見える。

うーん、なにか違うぞ。たしか、当初は屋根に葉っぱが茂っていたはずだ。

帰宅後、調べてみると、確かに違う。

当初は、この屋根には足場用の丸太で組んだパーゴラが覆っており、そこにブーゲンビリア、ウッドローズ、パッションフルーツなどが繁茂するはずだった。

「Atelier Mobile Team Zoo」のホームページより
「Atelier Mobile Team Zoo」のホームページより

これこそが「象 設計集団」が目指していた姿だ。事実、見事につる性の植物が屋根を覆っているではないか。

一度はこんな姿を見せていたのだ。

なぜ、これがきれいさっぱり亡くなってしまったのだろうか。

たぶんパーゴラが足場丸太を簡単に組み合わせたものだったので、台風の強風に吹き飛ばされたのではないだろうか。パーゴラまでは建設費から出せなかったのだろう。大変残念なことである。

となりに建っている、たぶん新しい公民館らしい建物の中で若者たちが大勢でダンスの練習をしていた。たぶん、冷房のきく室に違いない。

そうなのだ。この建築は、まだ冷房のなかった時代の建築なのだ。いまでは空調機も入っているが。

空調機が普通に普及してしまった現在は、風の通る、ガジュマルの下のような空間の快適さが感じられなくなっているのかもしれない。

普通に通り抜けることもできる。

リクレーションコーナーの小ステージ。段が多彩な色で塗り分けられている。

ここが何に使われているのか。どこも非常に奇麗に維持されている。

貝殻モザイクはまったく自由に作られたようだ。

これを作った人はいつまでも自分のものだと思うだろう。

いかにも楽しそうだ。

みんなで管理しているのだろう。

どこを見てもキレイに維持されている。

このブロックは何に使われるのか。

トイレの屋根の明かりとりだろうか。

旗竿の台だが、広場の区切りでもある。

地名、それとも、名字?

カタツムリ?

夏にはかなり草が這い上がるのだろうか。

入口にある掲示板。これはほとんど使われていないようだ。

 

1970年に大阪万博が終わると、華やかだった日本の近代建築は一気に終熄に向かう。60年代の日本近代建築を牽引してきた丹下健三は活動の場を中東の産油国に移し、主役を失った日本の近代建築は曲がり角にさしかかる。

 

そんな時、象設計集団の一連の建築は、建築界に大きな衝撃を与える。

それはモダニズムに心酔していた建築家たちにとって目の覚めるような鮮やかなショックだった。そこには、インターナショナリズムと正反対の地域主義の力強い主張があった。

これ以外にもいろんなきっかけがあって、近代建築は徐々に崩壊してゆくのだが、この建築はその一つの引き金になったことは間違いない。

 

この建築を訪れた2019年3月12日、たまたまだれも使っていなかったが、普段は使われているのだろうか。少し寂れた雰囲気を感じたが、内部を歩いてみると、すみずみまでよく手入れが行き届いており、愛着をもって維持されていることは間違いない。屋根のブーゲンビリアなどがまったく見えないことから、寂れた印象を受けたのだが、現実は分からない。

 

空調機の普及などの理由により、今ではあまり活用されていないかもしれないが、この建築の価値は失われることはないだろう。

1970年代の日本の近代建築を代表する重要な建築だと思う。

案内する人

 

宮武先生

(江武大学建築学科の教授、建築史専攻)

 「私が近代建築の筋道を解説します。」

 

東郷さん

(建築家、宮武先生と同級生。)

「私が建築家たちの本音を教えましょう。」

 

恵美ちゃん

(江武大学の文学部の学生。)

「私が日頃抱いている疑問を建築の専門家にぶつけて近代建築の真相に迫ります。」

 

■写真使用可。ただし出典「近代建築の楽しみ」明記のこと。

 

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