仙川安藤ストリートを行く

「シティハウス仙川ステーションコート」設計:安藤忠雄

京王線仙川駅に降りる。

駅を出て5分も歩くとさっそくいかにも安藤忠雄設計の大きなマンションが現れた。

ここはまだできたばかり、売り出し中だ。

すべて集合住宅、きっちりとした打ち放しコンクリート、街路に面して二層分の列柱が並ぶ。これぞまさしく正真正銘の安藤忠雄調マンション。

アーケードはいかにも安藤好みの固いコンクリート打ち放しのつくり。たしかにCITY HOUS SENGAWAと書いてある。きれいなアーケードだが、歩くには狭く、歩行者用ではなさそうだ。

 

「仙川デルタスタジオ」設計:安藤忠雄(2007年)

続いて前面ガラスの3階建てのビル。敷地の奥行きがないので、大きなファサードの割に極めて薄べったい建築だ。

南から見る。1階の入口と2階への直通階段がある。3階の屋根のコンクリートスラブがいかにも安藤デザイン。それにしても薄い。テナント募集のポスターが見える。道路側がすべてスモークの嵌め殺しガラス。いったいこの建築を何に使えというのだろうか。

さらに離れてみると、2層分のコンクリートの壁が伸びている。存在感はあるのだが。この壁は何の役にたっているのか。ユニークさは際立っているのだが…。

安藤ストリートの建築群

そもそもこれらの計画は1992年に認可された一本の道路から始まる。

ある地主の所有する細長い土地(左)は、都道によって、理不尽にもちょうど対角線状に分断され(右)、切れ切れの細長い三角形の利用価値のない土地に細分化されてしまった。

さらに悪いことにバブルの真っ最中に相続問題が発生し、相続税は天文学的な数字になっていった。

 地主の伊藤容子さんは、その特異な地形を活かして統一感のある街並を作ろうという大きな夢をもったのである。

「片手に巨額の相続税、しかしながら当該敷地のど真ん中に幅員16mの都道が抜ける… ただでさえ巨額の相続税に悩まされている状況なのにその上また大きな夢という悩みを背負い込んでその道を選択するということは茨の道を進むというよりは不条理の闇の中を手探りで進み、しかも足下は人跡未踏のでこぼこの岩だらけ、一歩踏みはずすと真っ逆さまに崖下に転落死するような想像を絶する日々の連続でした。」

 しかし、それは想像を絶する困難が待ち受けていた。さらに伊藤さんの話を聞こう。

「残地を片っ端から切り売りして納税したらどんなに楽だったろうかと思ったこともしばしばありました。しかし切り売りはいつでもできるという思いと最後までガンバってみようという意思が安藤忠雄先生に伝わり先生の深いご理解と絶大なるご協力と調布市や民間の会社をも巻き込み、最初に思い描いた計画よりはるかに素晴らしい街並になったのです。」(伊藤さんのことばは「街が生まれる」より)

 つまり敷地を斜めに縦断する都道のために切れ切れにされてしまった敷地を、逆に長い接道部分を活かして特徴のある街並みをつくってみよう、その設計を安藤忠雄に依頼してみよう、こんな伊藤さんの思いがこの街並をつくったのである。

全体を理解するために、いろんな資料をつぎはぎして建築群の配置図をつくってみた。

なにしろ、ここには全体を理解するための案内図がない。外国から見学に来る人も少なくないというのに、まるでガイドブックも案内図もない。

代わって、私めが全体図を作ってみた。間違っていたら教えてください。

下図の航空写真が計画以前のものなので、現状とは形が多少違うと思いますが、概略の様子はこれで理解できると思う。

なにもなかった新設の道路に、たしかに統一感のある街並が現れた。日本では他に決して見られない整った街並である。

これを美しいというなら、たしかに美しい。殺風景といえば、殺風景である。

 

「シティハウス仙川」設計:安藤忠雄(2004年)

整った街並、列柱の中には集合住宅の入口、喫茶店、レストラン、楽器の工房などが入っている。整然とした列柱、たしかに美しい。しかし、少し単調ではないだろうか。街との接点が固過ぎるような気がするのだが。

南側の4階建ての1階にはレストランなどのショップが入っている。

屋上緑化も試みられているようだ。

 

「せんがわ劇場・ふれあいの家・仙川保育園」設計:安藤忠雄(2007)

交差点に建つこのユニークなランドマーク。何だろうと思ってよく調べてみると、これに続くガラス張りの「せんがわ劇場」の楽屋らしい。

交差点のモニュメントとしてこの部分を目立つ建築にしたようだが、斜めの壁、大きなコンクリートの壁面など大げさな造形が独走している。

たしかによく整った街並だ。しかし、いかにも固く、単調だ。人を寄せ付けない閉鎖的な壁面が延々と続く。苦痛だ。

壁面はすべて同じ寸法のスモークドガラスで統一されている。

長いガラス壁面の中ほどに「せんがわ劇場」と「ふれあいの家」への大きな入口が空いている。

ここで、奥の傾斜した壁面と手前の垂直の壁面のズレを表現している。

残念ながら、長い壁面は、その中の活動が一切外へ表出されていない。単調で、表情のない壁面だ。この壁の裏に劇場や保育園があるなんて想像もできない。だから、街と建築の間に会話、交流が成立しない。

近代建築には珍しい堂々たるエントランス。

古典建築のジャイアントオーダーという列柱にそっくりだ。

ここが「せんがわ劇場」と「ふれあいの家」の入口部分。これに保育園を加えた複合建築がこの長細い建築の正体だ。保育園はうらの道に開いている。

劇場のロビー。劇場の壁面が傾斜している。右側が外に面したガラスの窓といいたいのだが、決して外を見ることのできないガラスの壁面である。

裏道へ入って劇場の建築の裏側を見てみる。これが「仙川保育園」だ。まるで表情がちがうので同じ建築とは思えない。

この建築の全体が見える写真をパンフレットからコピーした。

 三つの施設を合わせた複合建築、全体が調布市のものになっている。設計は安藤忠雄。調布市から安藤忠雄建築事務所に「音楽と芝居小屋のあるまちづくり」の設計が依頼されている。

ほぼ全体が二層分のスモーク・ガラスの閉ざされた壁面となっており、一番手前の交差点に接する一部分がモニュメンタルなコンクリートの固まりになっている。実は向こうの先端にも同様のコンクリートの固まりがあるが、それは東京アートミュージアムという別の建築。

 

「東京アートミュージアム」設計:安藤忠雄(2004年)

一番奥に隣接する東京アートミュージアム。建築単体としてはもっとも力をこめた作品かもしれない。外からはほとんど中が伺えない、しかし中は狭いが豊かな空間をもっている。

つまり、長大なガラスの壁面の両側に同じようなコンクリートの固まりを置き、モニュメントとしているわけだ。外観はよく似たものだが、一方は劇場の楽屋、他方はギャラリーというわけだ。

ちいさな入口から見えるエントランスの空間。

内部に広がる意外と大きな空間。安藤忠雄らしい空間だ。(カタログ「街が生まれる—仙川」より)

 

「仙川アヴェニュー南パティオ」設計:中地正隆(1988)

交差点に建つ南パティオ。左手の信号の向こうが北プラザ。

安藤ストリートの中で、この二つの建築だけが街に開かれている。他とは異なる表情をしている。

しかもこの二つの設計者は安藤忠雄ではなく、中地正隆(1966年東大卒)だ。

中地正隆って誰?とだれも思うだろう。

中地は丹下健三の事務所(ウルテック)にいたこともあり、テイク・ナイン計画設計研究所という事務所の共同代表者である。

もともと地主さんは中地にこれらの建築を依頼し、街に開かれた建築を目指したようだ。しかし、都道ができて、事情が激変し、突然大きなプロジェクトを推進しはじめ、そこから安藤忠雄が登場したらしい。

ゆったりと街に開かれたスペース。奥にはギャラリー。洋菓子店、ネイルサロンなど。

ここには、都市と建築が相互にとけ込んだ代官山ヒルサイドテラスの雰囲気がある。

コンクリートのフレームは固過ぎるが、スペースに余裕があり、なんとも豊かな表情だ。

南パティオの引き込んだスペースから北プラザをのぞむ。

余裕がありますねえ。

これができたのはいつなんだろう。

ショップのお姉さんに聞くと、もう25年ほど前です。との返事が返ってきた。1988年ころということになる。

 

「仙川アヴェニュー北プラザ」設計:中地正隆(1988)

ここは、プラザを囲んで建築が取り囲み、真ん中にシンボリックな樹が茂っている。右の赤い明かりはギャラリーと喫茶店、ショップの複合施設。どうやらここが安藤ストリートの観光案内所のような役割を果たしているようだ。つまり、テナントではなくてオーナーの店のようだ。

ここで安藤ストリート関係の展覧会のカタログ4種(各500円)が買える。安藤デザインのTシャツも販売している。

この上に音楽ホール、「仙川アヴェニュー・ホール」がある。

この写真の一階がギャラリー喫茶、二階がアヴェニュー・ホールのロビー、その右手の半円形の屋根の下が音楽ホールだ。

音楽ホールを背後から見てみる。ホールの形が正直に外に出ている。

なんとも可愛らしい形だ。

コンサートを聞きにきた人々。ポツリポツリと集まってきた。

実は、この日、友人のご子息がこのホールで5人の室内楽のチェロ奏者として出演するというので、安藤ストリートの見学を兼ねて来てみたのだ。

てっきり、このホールも安藤建築だと思っていたので、まったく別の建築家の設計と聞いてびっくりした。

その実情を理解するため、翌日、再度足を運んで、見学を重ねた。知れば知るほど興味深い歴史が見えてきた。

いよいよ演奏会が始まった。当日の演目は、

 シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44

 ドボルザーク:ピアノ五重奏曲 第2番 イ長調 作品81

ドボルザークは特にチェロの音色を楽しませてくれた。

チェロ奏者、朝吹元の演奏は若々しく、力強かった。ホールの音響も快適だった。

内部空間は外から見た通りの半円形、素直なものだった。

200弱の座席は満席、若い演奏家たちの音に酔いしれた。

樹を囲むプラザ。これだけの広場を都市に開放している。豊かな空間だ。

広場越しにホールを見る。なんとも贅沢な都市空間ではないか。

喫茶店からギャラリーを見てみる。喫茶店といっても座席数はほんの少し、ギャラリーに付属したサロンのようなものだが、いろんな小物を売っている。気持ちのよいスペースになっており、お姉さんもやさしく対応してくれる。ぜひ立ち寄ってみたいところ。

 

安藤ストリートの全体像は、意外と分かりにくい。

その理由は、オーナーも建築家も積極的に発信していないので、全体像が見えないからである。

ホームページやブログは沢山公開されているのだが、それらは表面的な観察か、あくまでも安藤忠雄かカメラマンの発信した展覧会の断片的な情報をもとにしたものだ。

そこからは、仙川アヴェニュー北プラザや南パティオが抜けている。しかし、安藤ストリートの最大の魅力はこの部分ではないのか。ここだけが都市に開かれた建築に挑戦し、気持ちのよい空間をつくることに成功しているのではないのか。

これらを含めた安藤ストリート全体の案内図やガイドブッックがぜひとも必要だ。

まだまだ解明すべき課題は多いが、とりあえず知り得たことを書いてみた。

 

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コメント: 9
  • #1

    朝吹正行 (月曜日, 02 9月 2013 19:16)

    大変有難う御座いました。
    これ等の建物の全体像を観たことがなかったもので、非常に参考になり、全体が良く分かりました。
    仰るとおり、安藤の担当した部分はコンクリートと不透明ガラスで閉ざされ、内部が分からない建物ですネ。町並みとしてあまり好ましくないように思いますが。。。
    それにしても、都道がこのように敷地を斜めに分断するが如く計画され、それが実施されたことが愕きです。
    コンクリートの打ち放し仕上げは、確かに力強さなどを表現出来ますが、そろそろ考え直してもよいのではないか。 
    明言できませんが、ヨーロッパでは1960年代にコンクリート打ち放し仕上げは、法的にやってはいけない、ということを聞いたことがあります。(安藤さんも海外では打ち放しはやっていないのではないか?)
    理由は、美的なことと、これだけの熱容量をもったコンクリートを外断熱し、内部に取り込むことにより、冷暖房の負荷をかなり軽減できます。イニシャルコストは高くなりますが、それは数年(?)で回収できるはず。なにより、建物内部の温度変化を少なくすることが可能です。
    そして、建物の寿命を長くすることが出来ます。
    東京では西面などは、夏季には表面温度が80度くらいになり、それが毎日、毎年繰り返されるのですから。。。建物に良い訳はありません。。。。
    以上、感想を述べさせてもらいました。

  • #2

    住民 (水曜日, 15 7月 2015 13:25)

    気持ちのよい空間???
    仙川住民で、安藤忠雄って素晴らしい!と言う人は皆無でしょう(地主以外に)。
    町全体の事なんて、なんも考えてない建物ですよ

  • #3

    隣人 (木曜日, 16 7月 2015 15:02)

    これは古くさいだけでなく閉塞感を感じる酷い街並みですね。

  • #4

    Unemo (土曜日, 14 11月 2015 16:31)

    打ち放しの美しい町並みを形成して
    並木の木々もコンクリートに映えて
    美しい
    中地さん設計の建物は打ち放しが、甘く
    シャープさが足りない。
    よって安藤のよう格調が出てこない
    安藤のアルミサッシは角も鋭角
    デザインの細部の統一が半端ない

  • #5

    住民その2 (月曜日, 11 7月 2016 01:23)

    お言葉を返すようですがシャープさなんてクソくらえです
    仙川の東方面にある安藤ストリートに新しいお店が出来たので久々に歩きましたが、閑散としていました
    駅前や西側の商店街通りは週末となれば人がごったがえしています
    カフェがたくさんあるけど足りないほどです

    安藤建築の仙川劇場前を歩くと単調な景色に道のりが遠く感じられ無駄に疲れます
    しかし今日、仙川アヴェニュー北プラザでミニライブをやっている人たちに出くわしましたが、とてもいい音で無機質なコンクリートの建物に囲まれても豊かな風景に思えました
    でも通りが閑散としているのでギャラリーは数人ほど・・・クイーンズ伊勢丹前の広場でやっていればもっと多くのギャラリーが集まったことでしょう

    余談ですが南西にある桐朋学園大の今秋完成予定の新校舎が隈研吾さんによって地下1階木造4階建てになるそうです
    公共施設で木造の4階建ては珍しく、五輪の件もあってまた話題になりそうです
    安藤さんのように斬新で革新的な尖った建築よりも、隈さんのようにアイデアは斬新だが伝統は否定しない「古きをたずねて新しきを知る」ような穏やかで柔軟な建築のほうが、私のような建築素人には理解はしやすいです

    人口密度の高い日本の都市ではアジアのゴチャゴチャした感じと無駄を許し受け入れるところが短所でもあり長所でもあると思うのです
    一言で言えばそれは個性です
    安藤さんは日本の都市が持つ個性や伝統を頭ごなしに否定してくるような建物を作られるので街中にあると違和感と圧迫感をおぼえるのだと思います
    既存の町並みに寄りそう努力もせず、これからの日本は古い伝統を捨て、「私(安藤氏)の考える美しいデザイン」の町並みになりたまえよという押しつけがましさを感じます
    たくさんの趣向の建物の一つとしてならあるいは周りが包み込んでくれたかもしれませんが、こうして安藤氏の欲望が一極集中してしまうと、見るものは胸焼けして辟易してしまいます
    仙川にあるのがマンションだけ、劇場だけ、どれか一つだけだったら「あの建物ちょっと変わってて目立っててかっこいいね」ですんでたかもしれませんが・・・

    長文失礼しました

  • #6

    住民3 (月曜日, 20 3月 2017 20:29)

    仙川に住んで約4年半ですが、安藤ストリートというものを、こちらで初めて知る事ができ、とても興味深くなりました。
    言われてみれば、安藤建築は殺風景かもしれません。とてもスッキリしたクールな色、デザインで、あまり印象的ではないかもしれないです。ちょっとアート的な銅像かオブジェがあると素敵になるのでは?
    私は、どちらかと言うと、中地建築の方が緑のシンボルツリーと合わせたり、お店の明るい照明が綺麗に見えて良いと思いました。

  • #7

    新宿 (月曜日, 17 7月 2017 04:30)

    安藤氏としては あまり設計したくなかったが
    強い地主の要請により 仕事した ということでは。
    安藤氏のよさが 出ていないように思われる。

  • #8

    大宮境 (土曜日, 09 9月 2017 07:44)

    安藤建築のみが かなり長く軒を連ねている場所は世界でここだけ?
    それゆえ 半分死んだ町のようになっているのか。

    他の安藤建築は 自然の中に 自然と対話しているものあり
    また
    普通の開放的建築物の中にあるため 対比されて
    美しいものがあるが、仙川ストリートでは 安藤建築だけゆえ 
    外部との遮断、閉鎖性がめだち
    建築が光っていないのかもしれない、と感じた。
    名建築家にもたまには失敗作がある、のは 当然のことらしい。
    これから 歴史的評価にさらされるであろう。

  • #9

    ブレッツェル (金曜日, 01 6月 2018 17:46)

    数年前この通りを散策していて、その異様な景観に息が詰まりそうになり、仙川アヴェニューに到達して、その柔らかな開かれた空間にほっとしたのが強烈な印象です。なので、こちらのブログに書かれていることに全面的に賛成いたします。

    安藤建築は個々の建物は凛として美しいと思いますが、周囲の街並みとの調和という点では失格ではないかと思います。

    中地さんの仙川アヴェニューは、建物単体では安藤建築ほどのインパクトはないかもしれませんが、周囲と調和しつつ適度に開かれた空間として機能していて、街並みを構成する要素としてはとてもよく機能していると感じました。

    建物単体の完成度の高さも大事かもしれませんが、主役はやはりそこに住む人々であり、人々の生活であると思います。建物が主役として君臨するような設計思想には、強い違和感を覚えます。

案内する人

 

宮武先生

(江武大学建築学科の教授、建築史専攻)

 「私が近代建築の筋道を解説します。」

 

東郷さん

(建築家、宮武先生と同級生。)

「私が建築家たちの本音を教えましょう。」

 

恵美ちゃん

(江武大学の文学部の学生。)

「私が日頃抱いている疑問を建築の専門家にぶつけて近代建築の真相に迫ります。」

 

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