自然環境を手に入れた研究所-ROGIC

ROGIC 設計:小堀哲夫 2013
ROGIC 設計:小堀哲夫 2013

あふれる光。整然と並んだ気品のあるデスクと椅子。そして緑。

目の前に展開したのは今までに見た事のない不思議な光景だった。

じつは、この写真、今から4年前、2013年10月、この建築が竣工直後に見学した際のものである。

今年、日本建築家大賞と日本建築学会作品賞を同時受賞したので、注目されているため、一部加筆のうえ、再度ここに紹介するものである。

日本建築学会作品賞と日本建築大賞といえば、芥川賞と本屋大賞を同時に受賞したほどの快挙である。

何層にもかさなって見えるフロアが、すべて大きな半透明な屋根の下に配置されている。どこにもまんべんなく自然光が届いている。

ここは、浜松市にある自動車用フィルターの世界的な企業ROKIの研究施設ROGICである。研究者に思いっきり豊かな環境を与えて、のびのびと研究してもらおうという意図から、こんな思い切った研究所ができた。

設計は気鋭の建築家、小堀哲夫。ここまで思い切った設計が出来たのは、オーナーから全幅の信頼を得て自由に腕が振るえたからに違いない。

先日の祝賀パーティで、オーナーは、ぼくのアイディアも入っているのを忘れないでね、と主張していた。つまり、それほど相互に信頼・協力の上でできたものだ。

柱のない大きな空間、まるでフラードームのようだ。

天井の菱形の半透明の素材は、この会社の製品である不織布のフィルターが使われている。この天井は光を通すだけでなく、空気もここから供給されている、いわば呼吸する天井だ。

この会議室や応接室と見違えるようなデスクと椅子は、研究者が自由に使う研究室そのものである。なんと贅沢な環境!

それにしても、この大きな屋根、いったい柱はどこにあるんだろう。いったいどんな構造になっているんだかさっぱりわからない。

おお、透明な天井があった。フィルターの裏に鉄骨の構造が見えた。フィルターがすっかり屋根の構造を隠していたのだ。木製の骨組みで軽やかに覆われているように見えたのは、あくまでも表面の仕上げだったのだ。この構造設計、オブ・アラップだそうだ。

どこから中で、どこから外かわからないほど、のびのびとした空間だ。

ここにやっとV字型の柱が見える。

横から見ると、三層の床の上に大きな屋根がかぶさっている様子がよく分かる。

この建築において構造と設備を担当したalupの協力は大きい。

小堀の素朴なアイディアを現実の建築に結実させた功績の一端は間違いなくalupのものであろう。ただ、彼らをその気にさせた小堀の熱意を褒めるべきかもしれない。

V字形のシャープな柱が屋根を支えているのがよく分かる。鋳物か?

研究所といえば、白い天井に蛍光灯で1年中朝から晩まで均一の環境というのが常識だが、ここでは、半透明の屋根からの自然光のもと、室内で季節の変化を感じ、一日の内に朝、昼、晩と時間の変化を感じ、晴天も雨も直ちに感じられるに違いない。そんな自然環境のなかにあえて研究者を晒そうとしている。そのほうが研究者にとって相応しいと判断したのだろう。

大胆な挑戦にも関わらず、細部まで細心の気配りも行き届いているように見受けた。

研究所なのに、室内がダークな色調で統一されているのはなぜか尋ねると、小堀は「日本民家の色調を参考にした」と答えた。なんと自由な発想か。そういえば、室内は研究室というより、しっとりと落ち着いた居間あるいは応接間のような雰囲気が漂っていた。

写真は撮れなかったが、地下には大きな実験器具を備えた実験室があり、研究機関としての機能が整っていた。

近代建築の常識にしばられない、自由な想像力が想いっきり発揮された、21世紀の現代に相応しい建築だと感じた。

 

最後に、特筆したいことが二つある。

一つ目は、大胆な構想を粘り強く完成まで導いた執拗な努力。それを可能にしたのは、構造、設備、施工の各担当者を巻き込み、真摯な協力関係を築いた統率力である。一見、1960年代の大胆な構想力に目を奪われがちだが、そこには、構造、設備など、現代の技術・思想が周到に張り巡らされている。まさに21世紀の建築なのである。とくに、フロアの各部の明るさ、温度が均等ではないことを積極的に受け入れる姿勢は、均質な空間を追求したミース的なモダニズムを乗り越える画期的な思想と決断の成果である。

二つ目は、小堀哲夫が法政大学出身、しかも陣内秀信ゼミの出身という意外な出自である。法政大学の建築学科は地味な印象が強く、ここからの建築学会作品賞はもちろん初めてである。しかも、陣内秀信といえば、ヴェネチアを初めとして、都市史の研究者というイメージが強いので、ここの出身というのがさらに意外である。

しかし、後日、いろいろ聞く所によると、小堀は、陣内教授のイタリア実測調査に参加した経験が自分の建築家形成にとって決定的に大きいという。大学は、技術より考え方、生き方を学ぶことが大切と言い切る。まさに陣内ゼミの申し子なのである。小堀の今後の作品から目が離せない。

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コメント: 1
  • #1

    かんてつ (木曜日, 04 9月 2014 09:55)

    この屋根、凄いですね。
    外側が構造体で中の膜と2層になっているようですが、
    断熱効果も狙ってるんでしょうか?
    アラップはドームの魔術師?ネルヴィの再来?

案内する人

 

宮武先生

(江武大学建築学科の教授、建築史専攻)

 「私が近代建築の筋道を解説します。」

 

東郷さん

(建築家、宮武先生と同級生。)

「私が建築家たちの本音を教えましょう。」

 

恵美ちゃん

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