鈴木大拙館を見る

鈴木大拙館 設計:谷口吉生 2011(H23)年
鈴木大拙館 設計:谷口吉生 2011(H23)年

鈴木大拙館は、金沢21世紀美術館から歩いて10分ほど、住宅地の奥に静かに佇んでいる。

近づくと、紅葉の森をバックに鋭角的なおびただしいラインがただならぬ緊張感を漂わせている。

石、コンクリート、金属の固い構成が紅葉の樹木と絶妙の対比を見せている。

一瞬近づくのを戸惑わせるような固い控えめなエントランス。

鈴木大拙(1870〜1966)は、金沢が生んだ世界的な仏教哲学者。100冊の著書のうち23冊が英文、各国で出版されたという。仏教の奥深い哲理をやさしい言葉で語り続けて世界に広めた。

小さな展示室を抜けると「水鏡の庭」に出る。右側の割石の壁が展示空間と池を隔離している。

押し寄せる紅葉の木々を受け止めて、石とコンクリートの壁がきっちりと四角い静かな水面を護っている。

展示室から出てくると池に面した外廊下の回廊となっている。右側の壁の裏は玄関から展示室へ向かう内廊下になっている。壁で視線を遮って注意を池に向かわせている。

壁と回廊と水の構成は、日本の禅寺の枯山水の庭を思わせるが、さらに耳をすますとミース・ファン・デル・ローエの「バルセロナ・パビリオン」からのコダマが聞こえてくるような感じがする。

「バルセロナ・パビリオン」が枯山水を引用してモダンな建築に昇華したと考えると、枯山水がバルセロナまで行ってミースによって近代建築の傑作に結実し、さらに打ち返されてここに開花したと言えるのかもしれない。

だから、ここは、単なる「和」でも「近代」でもない。

金沢21世紀美術館が活力あるダイナミックな美術館建築だったのに対して、ここは、対照的に静的な瞑想の場になっている。こんな至近距離で対照的な性格をもった現代の名建築を味わうことができる。金沢の文化的蓄積がそれを支えているような気がするのだが。

余分なものは何もない。すべてが極限まで省略された沈黙の空間だ。

回廊の先には池の中に張り出したような「思索空間棟」がある。

壁から乗り出すような紅葉の木々が美しい。

明らかに日本の伝統建築の要素をもっているのだが、モダニズの現代建築であることも間違いない。しかし、20世紀の近代建築とはどこか違う、やはり21世紀の現代建築というべきか。

どこが違うのだと言われれば、何よりもコルビュジエの「近代建築の5原則」がどこにもみあたらないことをあげたい。水平連続窓もない。ピロティもない。屋上庭園もない。逆に大きすぎる庇が屋根を覆っている。近代建築を見慣れた目には不釣り合いに大きな庇だ。

谷口吉生は、父谷口吉郎の子として、1937年金沢に生まれ、慶應義塾大学の機械工学科を卒業している。ハーバード大学の大学院で建築を学び、丹下健三の元で設計の実務を身につけている。モダニズム建築の申し子と言ってよい。

金沢には出身地にもかかわらず40年前に父親とともに関わった市立玉川図書館くらいしかない。

従って、これは、久しぶりに実現した里帰り作品である。

塀で囲まれた四角い池という構成は、上野の法隆寺宝物館ですでに経験済みのデザインではあるが、違いもある。

法隆寺宝物館の場合は、池はあくまで建築の前庭であったが、ここでは、池と建築は等価かそれ以上の存在である。

ここでは、むしろ池が主役といっていい。禅宗寺院における枯山水の位置づけと比較できるかもしれない。

モダニズムの常識からすると、あまりにも奇妙な建築であるが、なぜか、目をそらすことができない。単純だが力強い。なんとも不思議な力を秘めている。

ル・コルビュジエが幾何学的な造型をかなぐり捨てて、曲面主役のロンシャン礼拝堂を発表したときの人々の驚きに通じるものがあるかもしれない。

「思索空間棟」の中は沈黙が支配している。

近代建築が追求した、コミュニティ、交流、対話など人と人の対話を促す空間と正反対の沈黙、瞑想の空間。

近代の建築家はル・コルビュジエを初めとしてとして非常に饒舌な人が多い。丹下健三にしても、磯崎新にしても書いてもしゃべっても自分の考えを表現することに熱心である。そんな建築家は、隈研吾、安藤忠雄、伊東豊男、ときりがない。最近では、同じ丹下健三の門下で現役の槙文彦が90歳を超えてなお講演会に書籍の出版に情熱を傾けている。

それに対して、谷口吉生は寡黙である。書かず語らず、ひたすら設計に専念している。そんな谷口の寡黙な姿が作品に結実したような建築である。

案内する人

 

宮武先生

(江武大学建築学科の教授、建築史専攻)

 「私が近代建築の筋道を解説します。」

 

東郷さん

(建築家、宮武先生と同級生。)

「私が建築家たちの本音を教えましょう。」

 

恵美ちゃん

(江武大学の文学部の学生。)

「私が日頃抱いている疑問を建築の専門家にぶつけて近代建築の真相に迫ります。」

 

■写真使用可。ただし出典「近代建築の楽しみ」明記のこと。

 

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