おお、なんという大きな屋根だ。三層分もあろうかと思う大きさだ。
近頃、めったにお目にかかれない堂々とした屋根ではないか。
切り妻を埋める大きな開口部。
直角を45度傾けた、斜線が繰り返され、力強いメッセージを発している。
モダニズムのフラットな屋根に慣らされた軟弱な目には痛いほど強烈だ。
緑の山々をバックにして、よく整備された美しい庭を前に、大きさの異なる同じような切り妻の屋根が並んだ姿は壮観だ。
それにしても、この徹底した屋根。
山形にこの人あり、と言われている建築家本間利雄の設計である。
周囲の山々に呼応した造形であろうか。断固とした決断力が小気味よい切れ味を見せている。
切り妻の正面が向かっているのが、この「山寺立石寺」。
芭蕉の「閑さや、岩にしみいる、蝉の声」で有名なあの山寺である。
よく見ると小さな堂宇が山肌に点在しているのがわかる。
ここは山寺そのものを借景にした、じつに贅沢な施設なのである。
中は主としてレストランになっている。
つまり、山寺に来た観光客の休憩所として機能することが期待されているのだ。
直角を45度傾けた斜線(建築家は矩勾配(かねこうばい)という)がしつこいぐらい繰り返されている。
この窓の正面が山寺だ。
美しい庭園のむこうに山寺の全景を望む想像以上の絶景である。
屋根を支えるトラス構造を、二階のギャラリーがうまく隠している。
山寺を正面に眺めながら食事ができる贅沢な場所だ。しかも他の人工物が一切目にはいらない贅沢な環境だ。
庭もじつに心地よい出来上がり。
出来てから25年ほどたつので、庭がしっくりとなじんでいる。メンテナンスも非常によい。
建築家とオーナーとの関係が良好でないとこうはいかない。
少し野性味を残した、おおぶりの作庭が気持ちいい。
砂利の玉石も大振りになっている。
こんな和室が続いていた。
この部屋ももちろん「山寺」に向かっている。
大広間だ。そもそも最初のオーナーの希望が民家の移築だったそうだから、その民家の古材がここに生かされている。
エントランスのあたり、しっとりと落ち着いたたたずまいを見せている。
そもそも、雨のない地中海あたりの建築を元にした「モダニズム」の建築が山形のような場所にあう訳がない、と本間さんは考えたに違いない。
本間さんの建築は必ずといっていいほど「屋根」がある。山形を歩けば、いたるところで本間さんの大きな屋根の建築が目に入ってくる。
どれも、ごく自然に屋根がかかっており、風景にとけ込んでいる。「屋根はいらない」というコルビュジエのアジテーションに惑わされて、必ずフラットルーフにしてしまう世の建築家たちに対して、本間さんは「文句あるか」と胸を張っているようだ。
山形という風土に根をはった、みごとな建築家の生き方がうかがえる。
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